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「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1994年3月号掲載
江下雅之
ATMで現金をあずけることが、フランスではけっこうスリリングだ。
別に強盗辻切りが徘徊しているわけではない。最近のパリはずいぶんと物騒だが、ATMの防犯はきちんとしている。
預けたカネがちゃんと自分の口座に記録されたかどうか、その場ではわからない。いまだにドキドキしてしまうのだ。
フランスの銀行カードは Carte Bleu という共通カードだ。インターナショナル・タイプを指定すると、VISAカードと兼用になる。ちょうどクレジット・カードをキャッシュ・カードとして使うイメージだ。
このカードでカネを出し入れできることは、日本と同じである。窓口でもできるが、行列はやたらながい。
キャッシュ・ディスペンサーはたいてい二十四時間利用できる。パリ市内なら、街のいたるところに端末がある。一度にそれほど多くの金額を引き出す必要はないし、持ち歩く現金が少なくても、まったく不自由しないのだ。
ただし、預け入れは口座を持つ銀行でしかできない。
ATMで預けるときの操作が、日本のオンライン・システムとはだいぶ違う。暗証番号などを入力したあと、まず預金額を入力し、プリント・アウトされるチケットを取る。そして備え付けの封筒に、預け入れる現金または小切手をチケットとともに入れ、ポストのような口に投入する。
それが終わると控えのチケットが出てくるので、それをもらう。終わり。あとはカネの行方を気にしながら帰る。
入金が確認できるのは二日後だ。それまでは、封筒の口が開いてカネがぶちまけられていないか、金額を間違えていないか、などなどの不安。ある程度の額を預けたときには、けっこう気になるものだ。
考えてみると、フランスでは小切手を使う機会が多い。個人どうしの割り勘でさえもそうだ。
そして、この小切手の入金確認は、当然ながら、降り出したひとの口座が焦げついていないことを確認してからでないとできない。その場で口座に算入すること自体が、実際は無理なことが多いのだ。
とはいうものの、日本のシステムに慣れてしまったものにとって、入金をリアルタイムに確認できないのはもどかしい。
フランスの金融制度は日本とかなり異なる。預け入れに限らず、何かと問い合わせなければわからないことが多い。
ところで、フランスではミニテルという通信サービスが普及している。一般にはビデオテックスと呼ばれる通信規格の一つで、日本のキャプテンのイトコのようなものだ。端末を利用しているひとは、数百万人以上にもおよぶ。
銀行の契約事項やサービスの案内などは、ほとんどこのミニテルで検索できる。ファーム・バンキングのサービスも行われているはずだから、自分の口座残高を自宅から確認する利用者もいるだろう。
ミニテルにはそれ以外にも、いろいろ便利なサービスがある。テレビのコマーシャルでも、「詳しい情報はミニテルの当社のチャンネルで!」というくらいだ。恋人・愛人求ムのコーナーもある。
端末はフランス・テレコムから借りればいいが、パソコンからもアクセスできる。
ただし、ミニテルのプロトコルはV.23という規格で、これに対応しているモデムが案外と少ない。秋葉原で売っているモデムでも、国産品にはまずないだろう。
その中で、アメリカのGloval VillageはちゃんとこのV.23に対応していた。さすがに「地球の村」というだけのことはあるな、と雑誌の広告を見ながら変なことに感心してしまった。