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「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1995年1月号掲載
江下雅之
紅葉真っ盛りのブルゴーニュで、われら《欧羅巴根無草倶楽部》のオフがおこなわれた。総勢十一名、これまでの例会では最大規模であった。
もともとは、パリに長期出張で訪れた落合さんご夫妻(FLR フランス語会議室ボードリーダー)の歓迎オフをしよう、ということで計画が始まった。とあるところで「たまにはパリ以外でやりましょうか」という話題をだしたとたんに、在欧メンバーからあっというまに賛成のコメントがついた。
なかでも最も熱心だったのが、おとなりイギリスのメンバーだ。
「たまにはうまいものを食いたいよ〜」
という悲鳴のようなリクエストが入った。
ブルゴーニュ地方は、パリの南東にある広大な丘陵地帯だ。ボルドーとならぶワインどころで、収穫の季節にはいたるところのワイン畑が、豊饒な色をしたブドウにおおわれる。とくに、県都 Dijon [ディジョン]から南にひろがる丘陵地帯は、「Cote d'or:黄金の丘」とも呼ばれる。今回のオフは、「黄金の丘」の街 Beaune [ボーヌ] にておこなわれた。
なにしろ在欧何年にもなるメンバーが中心に計画したオフなので、待ち合わせなどはいたっておおらかなものだった。オフ前々日になって、
「たしか、集合は土曜……ええっと、十月二十九日でしたっけ? 待ち合わせは午後三時ぐらいでいいですか?」
「そうね、じゃあ試飲所あたりでおちあいましょうか」
「なにか変更があったら携帯電話で連絡ください」
ホテルは在リヨンのメンバーが予約しておいてくれた。この週末、フランスは四連休であったため、在欧メンバーが常宿にしているホテルを確保できなかった。
ところが、パリ組は誰もホテルの名前すらメモしてこないいいかげんさ。結局、インフォメーションでうろ覚えの住所をもとにホテルの電話番号を調べ、片っ端から調べることにした。
「あの、本日、日本人の名前で大人数の予約ははいってませんか?」
最初の一軒がたまたまそのホテルであった。
メンバー全員とは、無事にワインの試飲所(Marche aux Vins)で合流できた。ここは六十フランの入場料を払うと、一時間、好きなだけワインを試飲できる。入場の際にリストと試飲のための器をくれる。リストにはコメントできる欄が設けられている。気に入ったワインは試飲所出口にある即売所で購入できる。
地下には白ワインを中心に置いてある。本命の赤ワインは、順路の後半にある。これから訪れる人は、最初はペースを抑えること。
この薄暗い試飲所のなかで、ヨークから家族で訪れたメンバー、前日ディジョンに滞在していた落合さんご夫妻、在リヨンの町村さんと無事におちあう。この日の朝、ロンドンから飛行機でリヨン、そこからレンタカーでかけつけた中野さんの姿も発見。全員、ようやく勢揃いした。
町村さんは昨年に続いて二度目の Marche aux Vins。しっかりとワインのつまみのパンを持参であった。
子供をのぞく全員がひととおりワインを堪能したが、メインの夕食前なので、あまり量をとるわけにはいかなかった。それでも酒どころ新潟からやってきた○○さんは、すでにご機嫌なご様子だった。
夕食は Caveau des Arches というレストランでとった。どのレストランがいいか、ガイドブックの知識はまったくなし。もっとも嗅覚のきくメンバーが、店構え、メニューの内容、予算などを検討して選んでくれたところだ。もっとも、ここ Beaune なら、どこにはいってもまずはずれはないという。
このレストランは、十四世紀につくられた酒蔵を改造したところだ。「Caveau:地下酒蔵」という名前の通り、入り口を入ってすぐに地下におりる。連休とあって、店は予約の客でいっぱいのようだった。飛び込みで先に入った客が、残念そうに引き返す。
テーブルにつくと、すぐにギャルソンがメニューをわたしてくれる。コースは四段階ほどにわかれていた。
ぼくはためらわずに Boeuf Bourguignon を頼むことに決めた。これは赤ワインを使った牛肉の煮込み料理だ。ブルゴーニュ(Bourgogne)ワインを使わないと、正しい「Bourguignon:ブルギニョン」とは呼ばないそうだ。
コースについてくるアントレはエスカルゴ。ブルゴーニュ地方の県都ディジョンはエスカルゴの特産地なので、パリではわりと高めのコースでないとついていない蝸牛も、ボーヌでは庶民的なレストランでもお目にかかれる。
ワインの選択はロンドンから遠征の中野さんにまかせる。Marche aux Vins での試飲で、これぞという銘柄をチェックしていたらしい。
ボーヌでワインを頼むとなれば、自動的にブルゴーニュ・ワインだ。それでも強いて頼めば、ボルドーも出てくるらしいが……。
じつはこの五月にも、ボーヌでミニオフをやったことがある。そのときは別のレストランに入ったのがだが、安くてうまい、だけどボリュームがとてつもなく多い、という幸せな苦痛を味わった。この日も味は心配していなかったが、量がどの程度かどうか、出てくるまで不安(?)だった。
さいわい、適度な満腹感を覚えるぐらいの量、味のほうも期待どおり、そのうえ値段は予想よりも安いという満足ずくめのオフだった。
レストランでブルゴーニュ料理&ワインを二時間半ほど満喫したあとは、一同ホテルに戻り、ロビーで歓談を始めた。時間はすでの十時、それでも話しが尽きない。
メンバーのひとりから、スコッチが一本テーブルのうえに出される。きらりと目を光らせた何人かは、部屋に戻って洗面台にあったコップを持ってくる。
と、パリから参加の高岡さんが、袋からなにやらパックを取り出した。
「日本から出張できたひとのみやげなんですよ」
ハマグリの薫製だった。