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Degustation gratuite ![22]毎週金曜の日課
「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1995年12月号掲載
江下雅之
毎週金曜日は、巴里の日本書店 JUNKU堂に週刊誌の新刊が並ぶ日だ。この曜日だけはかならず外出し、新着の漫画週刊誌を読みあさる。まずは週刊モーニングをはじめとする漫画だ。それがひととおりおわると、こんどは一般週刊誌に手を伸ばす。このような調子で、おおいときに10冊ほどの雑誌を読むというのが、毎週金曜日の日課になっている。
なぜ立ち読みか、というと、これは単純に週刊誌が高いからだ。べつに JUNKU堂が不当利益を得ているわけではなく、航空便で輸送すれば、どれだけ価格を抑えたところで日本国内の3倍ぐらいにはなる。
立ち読みを黙認してもらっているから、というわけではないが、巴里の JUNKU堂はなかなか健闘しているほうだと思う。かなりの品揃えがある。しかし、どう頑張ったところで、日本の大書店にくらべればかなわない。東京なら各種の専門書店や古書店をはしごすれば、いくらでも本に出会うことができる。もちろん異国では望む方が無理なのは明らかなのだが。
理屈ではわかっていても、欲求不満はつのる。8月の一時帰国のときは、仕事がいそがしすぎて書店にいく時間がほとんどなかった。それでも中野のまんだらけで40冊ほどの古コミックは買ってきたが。
ところで、ぼくは8月から《本と雑誌フォーラム》の SysOp をやることになった。本誌のワンダーランド通信でおなじみ、水城雄さんの後を継いだ。
FBOOK では前々から出版情報の提供に熱心だった。水城さんの前の SysOp だった内藤さんは、日販や書泉グランデのベストセラー情報を、毎週ほぼコンスタントに掲載していた。これなどは、外国に住む日本人にとって、貴重な情報のひとつだ。
出版社や著者、あるいは読者による出版情報を扱う会議室もある。気軽な書評のコーナーもある。これらを読んでいれば、すくなくとも「どういう本があるか」は結構わかる。
ここでふと考えた。どうせなら、会議室で「立ち読み版」も掲載してもらえばどうか、と。
さっそく水城さんをはじめ、何人かの小説家に相談してみた。前々からネットワーク出版に熱心な、ひつじ書房の松本さんにも意見をうかがってみた。みなさん、これはおもしろい企画だ、できるだけ協力するといってくださった。
その後は予想外に手間取りはしたが、惜しまずに協力してくださった作家、出版社のおかげで、なんとか10月のはじめに、「電脳 Showcase」という会議室群を FBOOKR にオープンさせることができた。
この会議室には、一発言に一冊の割合で、本の一部が掲載されている。レース小説の第一人者、高斎正さんが、さっそく近著『サーキットを疾走れ』(勁文社)の冒頭部分を転載してくださった。小説家のたくきさんには、『狸と五線譜〜ポンポコライフ雑記帖』(三交社)という読書欲をそそるエッセイを紹介していただいた。
こうしてぼくは、たしかに巴里の自宅にいたまま、いろいろな本の立ち読みをできるようになった。われながら「電脳 Showcase」はうまい思いつきだと悦にいったものだ。
しかし、立ち読み版が増えるにつれて、ぼくは別の事実に気づいた。
この「電脳 Showcase」で立ち読みをしていると、猛烈に本が読みたくなってしまうのだ。掲載されている内容は、いかにもおもしろくなりそうなところで終わっている。続きが読みたい!
しかもその本のおおくは、JUNKU堂にはまだ陳列されていない。結果的に、ぼくは悶々とする原因を増やしてしまったのかもしれない。