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ネットワークの《物語》を読む(15)
「月刊ネットピア」(学習研究社/発行)1996年6月号掲載
江下雅之
h1 class="tit1">蛇使い座の割り込み
蠍座の男から、乙女座の男になった……といっても、べつに誕生日の届け出ミスが判明したわけではない。ぼくは10月27日生まれで、星占いでは蠍座だ(いちばん執念深い星座ですね)。ところが、昨年末からときおりテレビでも紹介している13宮星占いに従うと、この日は乙女座に属すことになる。
長年慣れ親しんできた星占いの星座——獅子座とか山羊座などは、いわゆる黄道12宮と呼ばれるものだ。黄道とは見かけ上太陽が一年を通して移動する天空上の「道」のことだが、ちょっと天文にくわしい人ならご存じのとおり、黄道にひっかかる星座は12ではない。蠍座と射手座のあいだに蛇使い座がかなりの領域にわたって割り込んでいる。13宮星占いは、この蛇使い座を加えたものだ。
もうひとつ、おおきな変更点がある。天文学で規定されている星座の領域は、おおきさも形状もまちまちだ。当然ながら、黄道にどれだけかかっているかは、星座によって相当異なる。ところが西洋占星術では、各宮を太陽が通る期間はおなじという設定になっている。いいかえれば、黄道にかかっている区間は360度割る12、それぞれ30度均一ということだ。
しかし、天文学上の星座で考えると、太陽が蠍座を通る期間はほんのわずかであり、逆に乙女座には一ヶ月以上も滞在している。13宮星占いではこれに従っており、たとえば蠍座生まれとなるのは11月23日から29日までのわずか一週間であるのに対し、乙女座生まれは9月16日から10月30日までという長期間だ。ぼくの誕生日は乙女座のはしっこに引っかかるわけだ。
このあたらしい星占い、業界(?)ではどう見られているのだろう。さっそく NIFTY-Serve の〈占いフォーラム〉(FFORTUNE)にある『西洋占星:やさしい西洋占星術』会議室を覗いてみた。
13宮星占いの話題が出ていたのは、95年末から96年正月にかけてのことだった。会議室での発言によると、13宮星占いの言いだしっぺはJacqueline Mittonというイギリスの天文学者だという。だいたいの論拠は先の項目に書いたとおりだ。「星で占うなら天体の位置をきっちり観測せよ」ということだ。
これはこれで筋の通った主張のように感じるのだが、会議室でもいくつか問題点が指摘されていた。たとえば占星術では太陽だけでなく月や惑星の位置も重要なのだが、天体の位置をきっちり観測するとなると、13星座でも足りない。蛇使い座どころか、鯨座やオリオン座なども必要になってしまう。冥王星などは軌道平面が他よりもおおきく傾いているため、黄道からはるかにはずれた星座に位置する期間が少なくない。
そもそも占星術と天文学とを変に細かく連動させることに、素人考えながら無理があるような気がしてならない。第一、西洋占星術は現代の星座区分が規定される以前から、ひとつの体系としてまとめられてきたのだから。
FFORTUNEの会議室でもさまざまな指摘がなされていたが、そのなかでも強い説得力を感じた意見がいくつもあった。西洋占星術は12宮を基本概念としていること。天文学的な星座(constellation)と占星術上の12等分された星座(sign)とは無関係であること。そして13星座でもやりたい人はやればよい、ちゃんと的中させられる占い師はいるかもしれない、等々。いろいろな意見を読んでいるうちに、東洋占星術がさまざまあっても陰陽五行・八卦などを共通基盤に置いているように、西洋占星術は12宮を根幹に置いており、13星座でやるからには、基礎概念からの理論づくりが必要らしい、というようなことが見えてきた。単純に「星座をひとつ増やしましょう」ではすまされない、ということだ。
ちなみに蛇使い座という星座はギリシャ神話ゆかりのキャラクタだ。『西洋占星:やさしい西洋占星術』会議室での発言によると、これはアスクレピオスという医療の神で、もともとはアポロンの息子であったという。幼少時に半人半馬のケンタウロス族のケイロン(射手座となる)に弟子入りし、死者をよみがえらせたことが冥府の王ハーデスの怒りをかい、ゼウスに雷を打ちつけられて死んだ、という話になっている。
この13宮星占い、定着するのだろうか。目新しいということもあって、ときおりテレビで紹介しているが。
「蛇」使い座に対しては、妙な星座という違和感があるような意見もある。しかしそれは馴れてしまえる問題だろう。「蠍」のほうが蛇使いよりもよほど剣呑だ。それよりもむしろ、多くの人にとって長年親しんだ星座がずれてしまうことや、12と比べ遥かに切りの悪い13という数字を扱わねばならないことに、個人的には抵抗感を覚える。やはりぼくは「蠍座の男」のほうを選びたい。