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フランスのネットワーク
「月刊The BASIC」(技術評論社/発行)1997年5月号掲載
江下雅之
日本のマスコミはしばしば「欧米に比べ日本のネットワーク利用は遅れて……」といった報道をしがちです.アメリカが圧倒的に進んでいるのは事実でも,ヨーロッパの水準はそれほどではありません.金融関係はともかく,学校や一般家庭でのインターネット、パソコン通信などの普及は,日本の方が進んでいますます.
とはいえ,フランスでもここ2年ほどで多数のウェブサイトが立ち上がりました.95年秋にはYahoo Franceが検索サービスを開始しました.フランステレコムは日本のNTTのOCNとおなじようなサービスWanadooを実施しています.97年2月からは定額オプションも設定されており,筆者も現在はWanadooを利用しています.
インターネットブーム以前にも,草の根BBSはいくつか開局していました.しかし,その多くはミニテルの「おまけ」のようなサービスで,内容もマニアックな領域や,ポルノグラフィが中心でした.最大手CalvaComはAFPのニュースを配信したり,広範な内容を網羅する電子掲示板があったことで,それなりの利用者を得ておりました.しかし,93年には経営不振で運営母体が倒産しています.その後別会社が経営を引き継ぎましたが,現在ではインターネットのプロバイダ事業が中心になっています.
初期のCalvaComはKDDの国際パケット交換網Venus-P経由で接続できたため,日本からも何人か利用しているました.そのうちの一人,藤野満さんの努力によって,89年11月にはCalvaCom内に「Soleil Levant(日,出ずる処)」という電子掲示板が設置されました.これは日本とのあいだでメッセージ交換をおこなうためのもので,日本側はNIFTY-Serveの外国語フォーラム内に専用会議室が設けられ,ここに掲載されたメッセージはCalvaComのSoleil Levantに,Soleil Levantに掲載されたメッセージはその会議室に転載されます.当時は海外のBBSに接続できたのはごく一部の人だけでしたので,藤野さんの地道な転送作業は,日仏をつなぐ貴重な交流ルートでした.実際にSoleil Levant会議室のフランス人メンバーと,NIFTY-Serve側会議室のメンバーとが,東京やパリでオフライン・ミーティングをおこなったこともあります.
現在,フランスでいちばん人気のあるパソコン通信サービスは,アメリカのCompuServeでしょう.パリやリヨンなどの大都市には接続のための直接ノードが置かれており,アメリカ国内とおなじ料金で利用できます.94年以降の相次ぐ値下げにより,かなりのフランス人がCompuServeに加入しました.現在はフランス人が運営ふるフォーラムがいくつもあります.
パソコン通信の最大手NIFTY-Serveには,フランスやフランス語をあつかう専用会議室のあるフォーラムが二つあります.一方は「ヨーロッパ・フォーラム(FEURO)」で,これは「国際フォーラム(FWORLD)」の分館です.フランス関係は「フランス」「パリの空へ」の二会議室あります.主として旅行関係の情報や,会員の旅行記などが掲載されています.また,「ヨーロッパに暮らす」会議室では,フランスでの生活に関する話題がしばしば登場します.旅行,生活などに関する実用的な情報を探す人には,かなり有益な情報源となるでしょう.
もうひとつは「外国語フォーラム・ロマンス語派分館(FLR)」です.ここは「外国語フォーラム(FL)」の分館で,語学をおもな話題にしているところです.フランス語関係では「仏語【勉強会・読書会】」「仏語【時事・社会】」「仏語【生活・一般】」「CAFE DE CINEMA」「Soleil Levant」など五つの常設会議室が設置されています.
「勉強会・読書会」会議室では,NHKのラジオフランス語講座を題材にした会員の自主的な勉強会が三年以上も継続しています.また,有志が読みたい本を決めて単語を調べあったり,感想を披露しあう読書会もおこなわれています.いずれもフォーラム会員なら誰でも参加できますので,独学に寂しさを感じている人には,ちょうどいい刺激になるでしょう.
Soleil Levant会議室は,FLRで最も活発な会議室のひとつです.インターネットが発達したとはいっても,日本人とフランス人が気軽に交流できる空間はなかなかありません.Soleil Levantは日常的な話題から哲学・文学にいたるまで,かなり広範な意見交換が,ごくアットホームな雰囲気のなかで展開されています.
パソコン通信でフランス人と直接交流したり,フランスの新聞情報などを入手しようと思ったら,CompuServeを利用するのがベストでしょう.関連フォーラム,情報サービスともに,世界のパソコン通信サービスのなかで最も充実しています.
フランス関係の老舗フォーラムとして,Foreign Language Education Forum(FLEFO)とEuropean Forum(Euro)があります.FLEFOにはフランス語会議室があり,EuroにはFrench Sectionのほかに,Swiss Section,Benelux Sectionなど,フランス語圏の常設会議室が置かれています.ただし,この二フォーラムについては,フランス人よりもカナダ人やベルギー人,フランスに興味のあるアメリカ人が多数集まっているようです.なかで交わされるメッセージも,フランス語でなく英語という場合が多いようです.
France Forum,Forum France Cinema,Jeux Video France Forumなどは,フランス人が運営し,「公用語」もフランス語です.フランス語によるナマの交流をしたいと思ったら,France Forumがいちばん適切でしょう.なかでも「On discute?」会議室は,いろいろなトピックスが飛び交い,かなり活発な議論が進行しています.
97年は「フランスにおける日本の年」で,パリをはじめ全国各地で日本関係のイベントが開催されます.3月には図書展で日本の出版をテーマにした講演会があり,テレビ報道でもかなり注目されていました.日本のプレゼンスが高まっている年ですので,これを機会にぜひCompuServeのフランス語関係のフォーラムを利用してみてください.
インターネットは「英語の世界」です.ところが7 bitコード体系の英語に対し,フランス語は8 bitですので,サーバやネットワークの「相性」が問題になることがあります.その点,8 bitを二重にしたような日本語の世界の方が,フランスのサーバと相性がいい場合もあります.その一方,日本語とフランス語とでコードが衝突する部分もあります.両者を混在させて日本語システム下で見ると,アクサン文字が漢字に化けてしまうのです.
こうした錯綜した状況のなかで,どうやってフランス語を利用すればいいのか? まず,ホームページ(Page d'accueil)の閲覧だけなら問題はありません.Netscape NavigatorやInternet Explorerをお使いであれば,Document Encodingを「Western(Latin1)」にするだけです.これでアクサン文字を画面にちゃんと表示させられます.
ただし,ごくまれにMacRomanという文字コードを使用するウェブサイトがあります.Netscape NavigatorのMacintosh版であれば,EncodingのなかにMacRomanが含まれていますので問題はありません.しかしおなじNetscape NavigatorでもWindows版にはこのコードがありません.インターネットではLatin 1が標準なのですから,こうした点はウェブマスターが配慮してほしいものですが…….
CIM(CompuServe Information Manager)というソフトでCompuServeを利用する場合は,SettingでHost Caracter Setを「Latin 1」にすれば,問題なくフランス語を使えます.ターミナル型ソフトが主流だったころは,フランス関係のフォーラムでも発言にはアクサン文字を使わないのが普通でした.しかし,現在はほとんどの人がちゃんとした綴りで書いています.
CompuServe間の電子メールでも,CIMでLatin 1を使う限りは問題ありません.しかし,インターネットメールとしてCompuServeの外に送るときは,Latin 1とは違うコード体系を用いているMacintoshではアクサン文字のミスマッチが生じてしまいます.
NIFTY-Serve内であれば,アクサン文字を使わないか,他の記号で代用するかのどちらかしかありません.欧文文字を使うと,その部分が漢字に化けてしまいます.NIFTY-Serve FLRのSeleil Levant会議室では,a+accent graveを「@」,e+accenta aiguを「{」というように,特殊文字を記号で代用しています.フォーラムで公開されている変換ソフトを使えば,もとの文字に復元できます.
最近はかなり多くのフランス人が,インターネットアドレスを持っています.インターネットメールはこうした人たちと低コストで交流できる強力な道具ですが,ここでも文字コードの問題があります.結論からいうと,インターネットメールでフランス語を使うときは,次のいずれかの方法を取ることをおすすめします.
(1)アクサンなしで書いてしまう.
(2)HTML形式で作成する.
(3)通信ソフトでQuated-Printableを指定する.
アクサンなしというのがいちばん簡単な方法です.文字の処理からすれば英語とまったくおなじですので,どこのネットワークで送受信しようが,トラブルの生じる余地がありません.欠点はもちろん「フランス語らしくない」ということだけです.
その点,二番目のHTML形式を使えば,データ本体で使う文字列そのものはASCIIの範囲内ですので,事実上,アクサンなしで書いたのとおなじことです.機種によるコードの違いもありませんし,記述もHTML専用のエディタを使えば,いちいちタグを打ち込む手間はかかりません.問題は,HTMLに対応したソフトで閲覧しないと,いちばんわけのわからない文字列になっている,という点です.
三番目のQuated-Printableですが,これは通信ソフトがテキストを送信する段階で,8 bitデータとして送るか,それとも最初から7 bitコードに変換して送るかの指定です.Quated-Printableにすれば,文字列は7 bitコードの範囲内でサーバに送られます.これを指定するかしないかの違いは,NIFTY-Serve宛にメールを送ると明確になります.
Eudora Liteを使ってWanadooのサーバからフランス語テキストをNIFTY-Serve宛に送信したとしましょう.Quated-Printableを指定していなければ,8 bit文字はそのままの形で中継されていきます.結果,NIFTY-Serve側ではやたら画数の多い漢字だらけの文書を受信します.WindowsなどLatin 1を採用しているシステムなら,このテキストを欧文フォントで表示すれば,もとのテキストに復元されます.たいていの場合は.他方,Quated-Printableを指定して送信すると,アクサン文字の部分が「=E9」とか「=E8」に置き換わっています.ASCIIでは表示できない文字を,このようなコード番号で代用したわけです.
これだけだと,「Latin 1が使える環境なら,Quated-Printableを指定しない方がいいではないか」と思われる人が多いかもしれません.しかし,インターネットの世界で8 bitコードを送ると,実際はサーバの設定次第でどういう結果になるかわからないのです.たとえばメーリングリストでおなじテキストを受信しても,ある人はちゃんとアクサン文字が表示されても,別な人は一部が欠落していた,というようなことがしばしば生じます.
8 bit文字の処理はサーバのフィルタによっては「異常なコードの侵入」と判断し,その部分を落としてしまうかもしれません.8 bitで送る限り,送信側はどういう形で届くかがわからないのです.その点,Quated-Printableにしておけば,送信時点で文字コードは7 bitに準拠したものになります.データ本体は「E9」などのコード番号であっても,通信ソフトで受信メールを表示させるときには,ちゃんとe+accent aiguなどで表示されます.
最後に,フランス関係のウェブサイトをご紹介しましょう.いずれも生のフランス情報に接する機会を提供してくれます.フランス語学習者にとっても,現代フランス語を知るうえでおおいに参考になるはずです.
フランスのサイト「.fr」を網羅的に探したいときは,http://www.yahoo.fr/にアクセスし,カテゴリから検索してみてください.プレス関係,政府関係をはじめ,美術館や図書館など,フランスならではのサイトが容易に見つかります.ただし,Yahoo Franceはカテゴリから探す分には便利ですが,キーワードによる検索はまだ弱いような印象があります.フランス関係の情報を広く探すには,アメリカのLycosやexciteなどの検索エンジンを利用したほうが効果的です.
Le MondeやLe Point,AFPなどのプレス関係も,ここ二年ほどでのきなみウェブサイトを立ちあげています.無料で閲覧できるのはごく一部の情報だけですが,それでもフランスの「現在」を知るきっかけを与えてくれます.Les EchosやLiberationなどの全国紙だけでなく,フランス各地の地方紙も見るチャンスがあります.
Radio France Internationのページも充実しています.ここはインターネットを使った「ラジオ放送」の実験もおこなっているところです.
旅行業者もなウェブを実験的に構築しはじめています.Reductourはフランス発の国際線航空便のスケジュールや,各社の割引料金がわかるようになっています.フレームを多用しているために,画面の狭いモニターでは見づらいかもしれませんが,各フレームが独立した選択肢になっているので,いろいろなケースを簡単に調べられるようになっています.
ビデオテックス網ミニテルの普及でやや出遅れたフランスのインターネットですが,いまや情報源として使えるサイトなどが増えています.日本ではなかなか入手しづらかったフランスの情報が,インターネットのおかげで本当に身近になりました.読者のみなさんも,ぜひ「ネットワークのフランス」に飛び込んでみてください.