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多面鏡[1998年10月21日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
ここ数年、十月は大学新入生のデモが半ば風物詩化していたが、今年はリセの生徒たちが主役である。十月十五日・二十日にパリ市内で行われたデモには、数万人規模の高校生が集まった。これを見て、フランスの高校生の活発さ・自己主張の強さを再認識した人も多いだろう。自らの要求を堂々と主張する姿を、頼もしげに眺めた人もいるかもしれない。それに比べて日本の高校生は……という比較をしたくなるが、ここでは教育をめぐる「市場」という視点から背景を探ってみたい。
十月八日にFrance 2で日本の教育現場に関する報道番組が放映された。題して「L'education a la japonaise」。日本の教育熱心な親たちは、幼児期のうちから子どもを厳しい競争環境に置くといった趣旨である。内容は興味本位の部分が多かったけれども、平均的日本人が教育に対し並々ならぬ投資意欲を持っているのは、ほぼ事実と認めていいだろう。そして教育熱心な親たちは、教育環境に対しても厳しい目を持っている。
フランスの高校生たちは、その教育環境の改善を訴えるためにデモを行った。しかしこれが現在の日本なら、貧弱な環境の高校など、「市場原理」で淘汰されてしまうのではないか。大都市圏は私立高校がいろいろな特色を競っている。若年人口の減少により、高校側も生き残りに必死である。環境劣悪な高校は、すぐに「お客さん」を逃してしまうに違いない。
フランスでは名門リセ入学をめぐる受験競争があるという話を聞かない。大学も同様である。グランゼコールは例外だが、平均的フランス人にとって、日本的な受験競争などまずは一生無縁の話だろう。別の見方をすれば、これは高校も大学も、「消費者」からの厳しい選択にさらされていないということでもある。デモで争点の教育環境の問題は、こんなところにも原因があるのではなかろうか。