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連載コラム 多面鏡[1999年1月11日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

ブルセラ現象とフェティシズム

 日本のいわゆるブルセラ現象は、これまでにも何度かフランスのマスコミが取りあげている。実際のところ、使用済みの下着を嬉々として買う行為は、社会通念からすれば風変わりな趣味である。それが社会現象にでもなっていれば、外国のプレスがわざわざ取材したとて不思議はない。
 ブルセラはフェティシズムの一つであるが、このフェティシズム、変な言い方になってしまうが、フランスにもかなり古い歴史がある。「自由人」サドの例はあまりにも有名であるし、かのルソーとて、『告白』のなかで少年期にスパンキング(お尻叩き)に恍惚としたと述べている。セルプリやロイックなど現代の人気BD作家もまた、「お尻フェチ」ともいうべき画風で知られ、日本にもファンが多い。また、インターネットの世界はどの国でもフェティシズムの楽園という側面があるけれども、yahoo.frなどの検索エンジンでフランスのフェティシズム系ホームページを調べてみれば、その百花繚乱とした賑わいぶりを認識できるだろう。ブルセラ趣味の人物がいるぐらいで、フランス人が驚くはずはない。
 問題は、フェティッシュな嗜好が個人の趣味でとどまっているのか、それとも社会現象になっているかどうか、であろう。いかほど奇異な趣味を持とうが、それは個人の思想信条の問題であって、そこに盗難とか暴行などが絡まないかぎり、他人の預かり知らぬことである。結局のところ、日本のブルセラ現象なるものは、マスコミが社会現象として演出した幻影という側面が強いのではないか。フランスにも「濃い」世界はいくらでもあるが、特定の嗜好を持つ人の世界は、けっして社会現象とは扱われない。おそらくフランスにもブルセラ「的」な趣味を持つ人はいようが、あくまでもそれは個人の世界であって、メディアが大々的に取りあげるような対象ではない。フランスのメディアが日本のブルセラを報道したのは、それを社会現象のごとく扱ってきた日本のメディアの責任なのではないか。


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