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連載コラム 多面鏡:1999年3月(2)[1999年3月16日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
「フランス人は英語ができるくせにフランス語でしか話さない」とは、フランス人に関する典型的な風説だ。しかし、語学力に関するフランスの世論調査結果を見れば、外国語を話せないとするフランス人が過半数を占めていることがわかる。むろん、こうした調査に対する回答は各人の自主申告であるが、外国語に強いとされるベネルクスや北欧の国民に比較すれば、フランス人は外国語が苦手と見て間違いなさそうだ。
この現実をどう評価するか。外国語に堪能なことをほぼ無条件に肯定する日本の世論を基準にすれば、フランスは国際化に遅れているとも言えないなくは。しかし、国民が概して外国語が苦手ということは、じつはその国の経済力・技術力が強いことの証明でもある点に注目したい。逆にベネルクス国民が外国語に堪能なのは、多民族国家という要素もあるが、経済活動に占める外国資本の割合が高いためでもある。語学はけっして趣味や教養の対象ではなく、パソコンが使えるとか経理の知識があるというのと同じく、安定した職を得るための必須の職能なのだ。
これに近い状況はフランスにもある。外資系、とくにアメリカ系企業への就職を目指す学生は英語学習に熱心であるし、MBAがブームになったこともある。そうであっても国民の過半数が外国語に疎遠のままでいられるのは、フランス自身に国民を養っていけるだけの経済力があるからに他ならない。じつはこの状況、日本もまったくおなじである。外国語は必須の素養と叫ばれて久しいが、実際問題、外国語に堪能でなければ職が見つからないわけではない。他方、おなじ状況でありながらも、外国語に対する切迫度は日本の方が高そうな印象を受けてしまう。それはおそらく、フランス語自体が他の国民から必須の技能として学習される対象となっているからであろう。国際化とは、国民が外国語に堪能となるという側面だけではなく、外国人がこちらの言語を学ぶメリットを増大させることでもあるのだ。