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連載コラム 多面鏡:1999年4月(1)[1999年4月14日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
カルチャー・ショックをもたらす要因の一つに、衛生感覚のズレがある。清潔さを好ましいとする価値観は共通しても、具体的にどういう点の清潔さが重視されるかには異なってくる。フランス人と日本人とが接するとき、お互いに相手の衛生観念の乏しさを嘆く事態も発生する。たとえばフランス人の中には、むき出しのバゲットを車の座席に転がす人がいるが、日本人には抵抗のある光景だろう。トイレで用を足した後で手を洗う人の割合が日本人よりも低いとか、入浴の回数が少ないという意見が在留邦人から聞かれることもある。しかし、週刊誌レクスプレスが九五年に行ったアンケートによれば、フランス人の九割以上はトイ
レを出るときに手を洗い、シャワーの平均使用回数は週五回強である。数字を見る限り、決して「手を洗う人が少ない」とか「入浴回数が少ない」わけではない。そもそもシャワーや入浴の回数ともなれば、当然ながら気候風土の影響も出てくるはずである。
もちろん日本人側の衛生観念についても、評価されることもあれば、非難された時代もある。安土桃山時代に来日した宣教師ルイス・フロイスは、著書『日本史』の中で日本の家屋の清潔さを絶賛したが、三百年後の明治時代に清潔大国のイメージは覆った。日本語のローマ字表記で有名なヘボンは、日本人を「不衛生で不道徳」とまで断じている。当時の日本では、伝染病に対する予防という感覚が一切なかったからだ。清潔に神経質な現代ニッポンの社会とて、フランス人の目から見れば、衛生感覚の欠如と捉えられる現象もあるはずだ。
衛生問題は誰でも気になるテーマであるために、たまたま目にした特殊なケースを一般化して語ってしまいがちである。しかし、衛生感覚のズレは、時には深刻な対立へとつながることがある。衛生感覚も生活習慣の一部である。異なる文化圏の人の日常的な行動に不潔さを感じることがあっても、その背景にどういう社会的関心があるのか、習慣があるのかを見極めないといけない。