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連載コラム 多面鏡:1999年4月(2)[1999年4月28日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

物価比較の謎

 日本のマスコミ報道では、東京の物価水準が世界一であることを当然のように書いていることが多い。しかし、実際にフランスに暮らしてみれば、価格破壊が進んだ日本の方が、多くの点で“割安”であることに気づく。たとえばガソリン価格は、レギュラー相当がフランスではリッター六・五フラン前後、一三〇円ほどなのに対し、東京近辺では九〇円前後だ。電話料金もNTTの市内通話はフランステレコムよりも安い。パリのメトロの運賃は随分と安い印象があったが、現在では回数券で一枚あたり五・二フラン、約一一〇円となり、東京の地下鉄やJR初乗り運賃と大差がなくなっている。パソコンやテレビなどの電化製品は、日本が世界一安い。
 にもかかわらず、多くの物価比較データは、東京が依然として世界一の水準にあることを示している。その理由の一つは、客観的な物価比較を行うのに、統一的な消費モデルを作らねばならない点にある。このこと自体はデータ処理上当然とはいえ、消費構造というものが、その地域の住民の生活様式に深く関係していることを考えれば、統一的な消費モデルそのものが矛盾をはらむことは明らかだ。フランスで納豆やタクアンを食べようと思ったら、高くつくに決まっている。逆に日本で上等のワインやカマンベール・チーズを日常的に消費すれば、エンゲル係数は相当高くなるだろう。物価比較というものは、全体水準の高低を判断するのではなく、生活様式の違いを読み取れることにこそ大きな意味がある。
 日本とフランスとの間でそうした違いを痛感させるのは、旅行に関する物価であろう。とりわけ宿泊施設の利用料金の差は大きい。これもまた、何週間という単位で一ヶ所に滞在することもあるフランス人と、あわただしく一泊か二泊で集中的に金を落とす日本人との違いを反映している側面がある。長引く不況で日本人の労働時間は減少したが、余暇時間もまた減っているという。安くじっくりと遊ぶスタイルが未発達な状態では、バカンス大国化への道はまだ遠そうだ。


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