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連載コラム 多面鏡:1999年6月(1)[1999年6月10日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
去る十二・十三日に伝統のルマン二十四時間耐久レースが行われ、片山右京・土屋圭市・鈴木利男の三選手が駆るトヨタチームが二位に入った。優勝はドイツのBMWチームだったので、表彰セレモニーではドイツ国歌の伴奏で国旗が掲揚された。そのとき、日本の選手たちが脱帽するかどうかに注目していたのだが、片山選手はすぐに脱帽、鈴木選手も続き、残る土屋選手は片山選手に促されて帽子を取った。なぜそんなことに注目したかというと、昨年もニッサンチームが総合三位に入り、三人の日本人レーサーが表彰台に立ったものの、国旗掲揚で脱帽したのが鈴木亜久里選手一人だったからである。そのときは国旗掲揚が始まるや、一位・二位のポルシェチームのドイツ人選手たちは、ごく自然に脱帽した。一位チームにはフランス人選手もいたが、彼はテレビ局からインタビューを受けていた最中だったにもかかわらず、話を中断してあわてて帽子を取っていた。
現代では広告塔の役割をも担っているプロスポーツ選手の場合、スポンサーのマークの入った帽子をかぶっていることは、契約上の義務にもなっている。それでもなお、国旗掲揚のセレモニーでは、脱帽して相手国や自国への敬意を表する行為が常識として通用している。日本では日の丸や君が代に関しては依然として激しい論争もあり、国旗を前に脱帽するといった習慣は一般的ではないかもしれない。フランスでも、サッカーW杯でラ・マルセイエーズを歌わない選手はいた。国旗・国歌に反発を覚える移民系選手もいるだろう。それでもなお、現実に国際セレモニーでは国旗を掲揚する習慣があり、それに敬意を表するという常識がある。郷に入りては郷に従うのもまた常識であろう。ルマンの表彰台で独仏人選手ができたことを、日本人選手ができなかったというのは、国内事情から弁解できることではない。ごく常識的な行為を自然に行えたのが、片山右京、鈴木亜久里という、長年海外に住んで活動していた選手だけというのは、いささか寂しいことではないか。