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連載コラム 多面鏡:1999年8月(1)[1999年8月8日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
フランスの住宅やカフェのミニュットリといえば、在仏日本人にはおなじみの仕組みだ。階段や廊下の照明のスウィッチはオンのみで、一定時間後になると消えるというこの仕組み、日本の旅行ガイドには、フランス人の倹約精神のあらわれと紹介されることが多い。しかし、本当に倹約精神を持ち合わせている人たちばかりなら、電灯などこまめにつけたり消したりしているだろう。実際のところミニュットリのような仕組みは、むしろ無駄ばかりが多い。現に、都合のいいタイミングで消えることなどまずない。四階、五階まで行くときでも、目指す階に着いてなおしばらくは灯りっぱなしだし、逆に重い荷物を運んでいるときなど、途中でいきなり明りが消え、あらためて灯しなおすハメに陥る。電力消費からも無駄の多い仕組みだし、不便なことも多い。メリットといえば、スウィッチを押す回数が点灯時の一回だけでいいということぐらいだろう。
ミニュットリで電灯がついている時間は、階段をあがるスピードなど、おそらくはある状態を想定した上で決めているのだろうが、問題はその想定に合致しない「例外」がすこぶる多いということだ。こういう例は、実はフランス社会のあちこちに見られる。二年前に鳴り物入りで導入されたSNCFのオンライン予約システム「ガレリオ」も、空席が十分にありながら満席と表示するなど、TGV利用者にはさんざんな不評をかこったうえに、細かな予約項目の変更が面倒だなど、柔軟性のなさが指摘された。実際のところ、個人レベルでは融通きわまりないフランスも、社会的なシステムでは、ずいぶんと硬直化した面がしばしば見かけられる。こういう事態を「官僚的」というが、フランスの役所とかかわり合ったことのある人なら、想定外の状況への冷淡さは実感していることだろう。してみると、ミニュットリとは決してフランス人の倹約精神のたまものではなく、杓子定規精神の展開例といっていい。