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連載コラム 多面鏡:1999年9月(2)[1999年9月17日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
フランスの食糧自給率(カロリー計算ベース)は百四十パーセントにも及んでおり、数字の上では、国民で消費する食料を国内生産でまかなえる。しかし、スーパーや市場にはスペイン産、モロッコ産、チュニジア産の果物や野菜があふれ返っている。肉とて輸入品は多く、それゆえイギリスで狂牛病が広がり、ベルギーで鶏肉のダイオキシン汚染が発生したときは、フランスでも騒ぎになったわけだ。食糧自給率は百パーセントを越えていても、多くの輸入農産品が国内で流通している。そうした状況は日本も同様だが、こちらの食糧自給率は四十パーセント程度にすぎない。
これは輸入量以上に輸出があることの結果だ。フランスの主要な輸出農産品はワインだが、一方で膨大な輸出があるからこそ、大量の輸入があっても自給率は百パーセントを越えられるのである。一九九三年の多角的貿易交渉ウルグアイ・ラウンドでは、農産品の貿易自由化が大きな争点となった。そこでは日本とEUが自由化に対抗したが、日本は米の輸入に抵抗し、EUは輸出奨励のための農業への補助金を維持しようとした。おなじ抵抗でも、発想がまったく逆だったのである。EU流に考えるなら、日本が国産米を守るためには、なんとかして国産米を輸出すべしということになる。攻めてはじめて自分たちの食料を守れるということなのだ。
日本にとって、経済性で不利な国産米を輸出しようと思ったら、寿司や日本酒など、割高でも日本米が求められる食の文化を世界に輸出し、浸透させなくてはいけない。こうした発想はいわゆるグローバル化には逆行すると感じるかもしれないが、フランスは長年行ってきたことなのだ。各国の公式晩餐会でフランス料理がふるまわれることはめずらしくない。東京でもニューヨークでも、地元の人がフランス料理を味わっている。グローバル化とは、文化の熾烈な覇権争いという側面をもあわせもつ。我ら日本人も、自分たちの文化や習慣に愛着や誇りを持つのであれば、それ自体の輸出を考えるべき時期なのではないか。